では生涯「賃貸」で暮らす場合はどうだろうか。家賃が10万~12万円の賃貸物件を住み替えながら暮らした場合、50年間の総住居費は約6990万円と家を買うよりも安上がりだ。とはいえ、鈴木氏が「一般的に賃貸の場合には、買うよりも多くの老後居住費が必要になる」と指摘する通り、定年後に家賃を払い続けるのは決して簡単なことではない。家賃12万円の物件に65歳から80歳まで暮らすと、単純計算で2160万円の住居費が必要になる。「生涯賃貸」を貫くのなら、定年までにしっかりと貯蓄を積み上げておくことが必要だ。
賃貸のメリットとして、急な転勤や転職、給与ダウンなどに対応しやすい点が挙げられる。生活基盤が安定するまでは賃貸で暮らし、頭金とローン返済の目処が立ったらマイホーム購入、というのは定番の人生設計だが、賃貸の期間が長ければ長いほど家を買ったときの総住居費は高くつく。コスト面だけで単純に良し悪しを断じるのは難しいものの、購入を考えているなら「なるべく早めの検討を」というのが鈴木氏の見解だ。老後に向けた貯蓄額が充分ならば、あえて購入に見切りをつけて賃貸物件を住み替えていくのもひとつの選択肢になり得るだろう。
『SUUMO新築マンション』編集長の柿崎隆氏は、こう解説する。
「住居費はコストである半面、購入すれば資産(投資)にもなります。不動産は“富動産”にも“負動産”にもなり得ますが、リスクをとって資産形成するチャンスでもある。一方、リスクをとらず一定のコストを負担し続けるのもひとつの手。住み心地も含め、どちらが正解かは人それぞれの価値観次第です」
生き方によって不動産との付き合い方は大きく変わる。家を買うにせよ借りるにせよ、自分自身が「どう暮らしたいか」を若いうちから具体的にイメージして、長い人生を乗り切るための備えを進めておきたい。
取材・文/曹宇鉉(HEW)