「戦争中は陸軍の工場で戦闘機を作っていてな……」「私は被服廠で軍服を縫っていた」。亡くなった両親からそんな話を聞いたことがある人は、親の「未払い年金」を取り戻せる可能性があるという。
「未払い年金の請求は本人の死後もできます。年金時効特例法によって時効がなくなり、故人と生計を同じくしていた遺族なら、戦前の年金加入分まで全額受け取ることができます」
そう語るのは「年金探偵」と呼ばれる社会保険労務士の柴田友都氏だ。年金記録を戦前までさかのぼって調べ上げ、これまでに5000件もの年金支給漏れ(請求漏れ)を発掘した「取り戻しのプロ」だ。
厚生年金の制度は戦時中の1942年6月に始まり、陸海軍や民間の軍需工場などに動員された約400万人が給料から年金保険料を天引きされていたとされる。だが、記録不明などでその期間の年金を受け取らず亡くなったケースは多い。
「問題は、勤務の事実を示す証拠や期間の特定などに多くのハードルがあり、専門家でなければ非常に難しいことです」(同前)
遺族への聞き取り調査をもとに、軍需工場の名簿や上司の軍人の名前などを割り出し、勤務実態を積み上げる作業を行なってきた。1枚の写真をもとに、終戦後に内部資料を焼却していた陸軍工場の勤務者への年金支払いを、1か月分のみだが認めさせたこともある。