絶対的な権力者──日産自動車のカルロス・ゴーン容疑者(元会長・64)は、社内でそう形容するしかない地位を築いていた。その不正を暴くことを決めた経営陣の覚悟は、並大抵のものではなかった。失敗すれば85年の歴史を持つ日産の存続さえ危うくなる。
「クーデターではない」と西川廣人社長(65)は会見で強調したが、大企業の絶対的権力者が突然追放されたケースは、日本経済の歴史において何度かあった。
「創業一族の社長ではなく、実力を認められた“プロ経営者”が逐われたという意味で似ているのは、セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文・前会長のケースではないでしょうか」(『経済界』編集局長の関慎夫氏)
鈴木氏は、1973年に日本初のコンビニエンスストア「セブン-イレブン」を立ち上げ、セブン&アイ・ホールディングスを日本最大の物流グループにまで押し上げた。
ところが2016年4月に人事を巡って権力構造の変化が起きる。鈴木氏は当時セブン-イレブン社長だった井阪隆一氏を退任させる人事案を提出したが、取締役会で否決され、その日の午後には自らの辞任を発表した。
「鈴木さんは次男を役員に登用するなどワンマン経営が目立ち、創業オーナー家である伊藤家(伊藤雅俊・名誉会長)との対立が取り沙汰されるようになっていた。井阪社長解任案がその決定打になった」(同前)