このように酒を愛した勝谷さんではありますが、結果的に酒が自身の命を削る結果になってしまった。その是非についてはここでは触れませんが、たった一人の人物との出会いが人生を変えることについて、述べさせてください――。
私の人生は、勝谷さんと出会ったことで大転換したと思っています。2009年4月、ネットのニュース編集を3年やり続けた結論として『ウェブはバカと暇人のもの』という本を出版しました。それまでは梅田望夫氏の『ウェブ進化論』を筆頭とする「ウェブ2.0」的な文脈がネット上では支配的でした。つまり、インターネットというテクノロジーは人間をさらなる高みに連れていく“夢のツール”的な役割を果たすという言説こそが優勢でした。
私の本はタイトル通り、その風潮に一石を投じるものでした。それまでウェブメディアも紙メディアも広告業界も、ネットの素晴らしさをこれでもか!とばかりに煽ってきただけに、「ついにこいつ、パンドラの箱を開けやがった……」となったのです。
ここで何が発生するかといえば、私と私の本に対する「スルー」です。散々ネットを持ち上げてきたメディア及び広告業界は、「この本は読者様も広告主様も読まないでくださいね」的な態度を取り、黙殺を決め込んだようです。
発売以来次々と重版がかかったのでよく売れていることは分かったのに、不思議とまったく書評が書かれない。編集者も不思議がっていたのですが、そんな中、初めて声をかけてくれたのが勝谷さんだったのです。
当時、勝谷さんは『日経コンピュータ』の巻頭エッセイを担当していたのですが、同誌の編集者から「勝谷さんが『ウェブはバカと暇人のもの』を絶賛しているので、ぜひお会いしたい、と言っています」と連絡があり、2009年5月、東京・麹町の勝谷さんの事務所の入ったビルの1階打ち合わせスペースで取材をしていただきました。