人生100年時代を迎え、サラリーマンの「定年」をめぐる考え方も大きく変わろうとしている。230万部の超ロングセラー『思考の整理学』の著者で、新著『お金の整理学』を上梓した外山滋比古氏(お茶の水女子大学名誉教授)は、「定年延長」の流れについて疑問を呈する。
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何年か前に、企業の定年は60歳から65歳に延ばされた。企業には、働きたいという意志を持つ社員を65歳まで雇う義務が生まれた。なかには自主的に70歳まで働く場を提供する会社もあるという。
65歳定年が義務化された背景には、国の年金財政が苦しいという事情がある。
支給開始を60歳から65歳に後ろ倒しにしたことと連動して、定年の年齢も上がったのだ。であるからには、そう遠くない将来、年金の支給開始も、企業の定年も、70歳という時代がやってくるのだろう。
ただ、たとえ会社が雇ってくれるといっても、70歳まで同じ会社に勤め続けることは避けたほうがよいのではないか。
会社に長くしがみつくほど、定年後に新たな仕事を始めることは難しくなるだろう。事業を軌道に乗せる上で必要となる体力もやる気も、50歳と70歳では大きく違う。
目的はあくまで、少しでも長く、経済的にも精神的にも自立した人生を歩むことだ。5年ほど長く会社に雇ってもらった結果、退職してすぐに年金と貯金だけが頼りの老後になっては、あまり意味がない。
むしろ定年を前倒しにするくらいの気持ちがあっていい。
サラリーマンを辞めた後に新しい事業を立ち上げようと思ったら、10年くらい前から少しずつ準備が必要なはずだ。
最初からやりたいことが定まっているとは限らないから、複数の案を持ちながら構想を練る期間があったっていい。コンサルタントのような仕事がやりたいなら、サラリーマン時代から自分を売り込む先を探して、人脈を広げておくことも大切になる。同じ会社のなかの人間関係は、あまり役に立たないはずだ。
また、サラリーマンでいる間に、練習期間を設けるという考え方もある。