たとえば年金制度は、「40年間(20~60歳)保険料を支払い、15年間(65~80歳)年金を受給する」という計算で組み立てられている。しかし、人生100年時代に受給期間が35年に伸びれば、制度は根底から崩れ、国が年金を払えなくなるのは時間の問題と覚悟しておいた方がいい。
医療も同じだ。日本人の「健康寿命」は男性約72歳、女性約75歳(2016年、厚労省調べ)とされるが、平均寿命には追いつけない。制度上も、現役世代の人口が先細るなか、100歳まで寿命が延びる高齢者の医療費を支えるには限界がある。ニッセイ基礎研究所の村松容子・准主任研究員が語る。
「寿命が延びたからといって、病気にかかる年齢が遅くなっているわけではありません。むしろ、昔ならがんを宣告されて余命5年だった人が、医療の進歩で10年や15年間生きることができるようになった。つまり『病後』が長くなっているわけで、その分、医療費の支払いや家族の介護負担が重くなっていく。
とりわけ懸念されるのは、早いタイミングで体を壊した人が、どんどん負のスパイラルに陥る危険が大きいことです。60代で病気をして働けない状態になれば、収入が絶たれたなかで、医療費がどんどん出ていくことになる。貯蓄を取り崩すだけの状況が30年も続けば、すべてを失う老後破産は避けられません」
一度、負の連鎖にとらわれると、「長い人生」の残り期間を苦しみ続けることになりかねないのだ。
もちろん、年金と同様に日本人の寿命が延び続ければ、健康保険制度の前提が根幹から揺らぐことになってしまう。
すでに、高齢者の医療費のために投入されている現役世代の健康保険からの支援金と国費は相当額にのぼり、75歳以上の後期高齢者の自己負担増の動きが始まっている。医療費の支払いを“現役世代並み”で求められる人は、寿命が延びるとともにどんどん増えていくと考えられるのだ。
※週刊ポスト2018年12月14日号