もちろん、10年先にどの企業が成長を遂げているか、正確に見通すことなど誰もできない。10年前に、東芝やシャープといった日本を代表する電機メーカーが相次いで経営危機に陥ることを予見していた人などいない。むしろ安定して成長を続ける銘柄として推奨されていたはずだ。大地震の発生とその後の事故によって株価が急落した東京電力についても同じことがいえる。
将来、確実に値上がりすることが保証された銘柄など存在しない。だから、私の新刊『お金の整理学』でも個別の企業や業界について、「値上がりするから買ったほうがいい」などといった類の話は書いていない。
ただ、損をする銘柄がいくつかあったとしても、株投資を前向きにとらえる人が増えれば、結果として国の経済が上向いていくことにつながる。個人が保有する1000兆円近い現預金のうち、2割か3割が株式市場に回るだけでも、株価は見たこともないペースで上がっていくはずだ。そうした「社会貢献としての株投資」の意義が広く理解されるようになって初めて、日本人は本当の意味で〈エコノミック・アニマル〉になったといえるだろう。
長い人生が楽しく、面白いものになるのだから、〈エコノミック・アニマル〉も悪くないと思う。
長期投資が社会に根付いていけば、投資先が成長する期待に胸を膨らませる高齢者の生きる気力となる。結果として日本人の健康寿命はもっと延びるのではないか。そんなふうにも思っている。
※外山滋比古・著『お金の整理学』より