年金生活者にとって物価上昇は死活問題だ。今年10月に消費税率が10%に引き上げられると、確実に物価は上昇し、個人消費が落ち込むことが予想される。
厚労省の標準モデル年金に近い月額22万円(夫16万円、妻6万円)の世帯の場合、物価が増税幅と同じ2%上昇すれば、実質的に、年間5万2800円分の年金価値の減額となる。
それに加えて、消費の落ち込みがダブルで年金に影響する。企業業績が悪化し、実質賃金が下がるからだ。“年金博士”として知られる社会保険労務士の北村庄吾氏が解説する。
「年金には物価や賃金に応じて支給額を調整する制度があります。本来は物価が上昇しても年金生活者が苦しくならないよう、支給額も増えるのですが、マクロ経済スライド(※注1)の導入でこの機能が働かなくなった。しかも、消費増税のように現役世代の賃金アップが伴わない物価上昇が起きた場合、増税の数年後まで年金額が目減りしていく」
【※注1/物価や賃金の上昇に比例して増額される年金の給付水準を、社会・経済情勢に応じて自動的に抑える仕組み】
前回の消費増税(5%→8%)による年金への影響を分析した第一生命経済研究所のレポート(※注2)によると、2018年の実質年金額は増税前の2012年に比べて6%も減少している。標準モデル世帯でいえば年間約16万円もの年金が減らされたのだ。年金生活者は「3%の消費増税」と「6%の年金減」のダブルのダメージを受けたことを示している。
【※2/昨年8月発表「なぜマクロスライド未発動でも年金は実質目減りしているのか」】
さらに、これから年金を受け取る世代は受給開始年齢の引き上げや、「公的年金等控除」の見直しによる年金課税の強化が始まる。増税による生活破綻の危機は目前に迫っている。