◆構造的変化の予兆は米大統領選の行方から見極められる
さて、今にして顧みれば、あのバブルの崩壊は、日本経済の置かれた国際的な環境が構造的に変化しつつあったことを暗示していたように思われる。
1980年代後半にソ連圏の経済運営が行き詰まり、1989年11月にはベルリンの壁が壊され、1991年12月にソ連が崩壊して、東西冷戦は完全に終わった。
アメリカ経済に「平和の配当」をもたらした冷戦の終結は、日本にとっては、アメリカの「不沈空母」(中曽根康弘元首相)となって軍事費をセーブし、製造業に資源を集中して輸出で稼ぐ、幸福な時代の終わりを意味していた。
実際、東西の緊張緩和が進むにつれて日米貿易摩擦は激しさを増し、平和になった世界ではあちこちの地域が工業化されて、日本国内の製造業は競争力を失っていったのである。
そういう観点から今年を展望すれば、なんといってもアメリカ大統領選の行方が気にかかる。万一、日米安保条約に批判的であり、雇用確保のための保護貿易を是とするドナルド・トランプ氏が当選するならば、日本の株式市場は壊滅的な打撃を受けるだろう。
そして、誰が大統領になるにせよ、トランプ氏への支持が高まるほどに、その主張をまったく無視することは難しくなる。
日本では暴言だけが注目されがちであるが、泡沫候補であるべきトランプ氏の躍進は、富の偏在に対する不満と既存の政治勢力に対する不信が、私たちの想像以上にアメリカ社会を蝕んでいることの証しと見るべきであろう。
シェール革命(※注)によってエネルギー自給が可能になっているのに、なぜ、アメリカ国民が世界の安全保障のために巨額の軍事費を負担しなければならないのか?
【※シェール革命/シェール(頁岩)層から天然ガスや原油を低コストで採掘できるようになり、米国を中心に採掘が本格化している。これにより、米国は世界最大のエネルギー生産国となろうとしている】
自由貿易の恩恵は大企業と富裕層のみに留まり、貧富の格差は拡大するばかりなのか?
今年の大統領選は、今後、こういう問いかけにアメリカの政治が真剣に向き合わざるを得なくなるリスクの度合いを見極めるための貴重な機会となろう。
※マネーポスト2016年春号