2015年年末からの中国発の株暴落が世界の市場を揺るがしている。その背景にはヘッジファンドの影響があったという。彼らの動向について詳しいパルナッソス・インベストメント・ストラテジーズ代表取締役の宮島秀直氏が解説する。
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昨年6月以降、中国株が大きく下落している。12月後半にかけて、いったん小康状態となったが、昨年末から再び急落状態となっている。実は、この背景には、ヘッジファンドが大きく関わっている。
米調査会社ヘッジファンド・リサーチによると、昨年、中国国内で1500本以上のヘッジファンドが解約され、その際の株式の売却金額は約36兆円に達しという。そして、昨年から今年にかけて、さらに7兆円以上が売却されたとしている。
この中国株売却を行なっているヘッジファンドには、ブリッジウォーター、ソロス・ファンド、ブラックストーン、フォートレスといった錚々たる顔ぶれが並んでいる。これら著名ファンドに加え、バーチュ・フィナンシャル、タワーリサーチ、オプティバーといった、大手高頻度売買業者の名前も浮上している。高頻度売買とは、コンピュータのアルゴリズムを駆使し、1秒間で1000回以上の売買を行なうという手法だ。
中国政府は、投機活動を行なうヘッジファンドについては、厳しく規制しているはずだが、なぜ、こうした巨額な取引が横行しているのか。
ヘッジファンドは、まずコモディティ(商品)などの現物を扱うトレーディング会社を中国国内に設立し、その後、中国国内の証券会社とパートナーシップを結び、証券分野に進出。法律上はコモディティー取引会社、あるいはコンサルタント会社となっているものの、現地証券会社のネットワークを通じて、富裕層にアプローチして運用資金を獲得する――こうしたケースが報告されている。パートナーシップを結ぶ際には、政府要人に対する紹介料(賄賂)が支払われ、規制の網を掻い潜ってきた模様だ。
こうした形で運用されることになったヘッジファンドは、長期投資型ではなく、四半期決算型や随時解約型が多く、さらに、先のヘッジファンド調査会社によると、全体の50%以上は、「損失が10%を超えた段階で強制売却が適用される」というルールになっているという。株価が不安定になると、一斉に大量の売りが出やすいのだ。
しかも、香港のヘッジファンドによると、ファンドの資金の出し手のほとんどが、地方の政府系機関や、中央政府の高級官僚を含めた富裕層だという。つまり、中国株を実際に売ってきたのは、政府関係者である可能性が高い。
そして、重要なのは、こうしたヘッジファンドの売り圧力が、まだ、8兆円程度残っていることだ。ヘッジファンドの決算である3月末に向けて、この売りが断続的に出てくるとみるべきだろう。
※マネーポスト2016年春号