放置されたままのダンボールと大量の掃除用品
認知症になると、計画をたてて実行することができなくなる。また自発的に何かをしようとする意欲も低下する。例えば、家の掃除や片付けができなくなるというのもその一例だ。
元来几帳面な性格で、家のなかは常に清潔、整理整頓もバッチリだったユリコさん。それなのに1999年、東京都調布市から町田市に引っ越したとき、引っ越しの荷物の入ったダンボールをユリコさんはなかなか開けようとしなかった。
せっかちな性格でもあったユリコさんは、常々家族にも「買ってきたものはすぐしまう!」「出しっぱなしにしない!」と口うるさかっただけに、ハナさんは不思議に思った。しかし、別にハナさんが使うものでもなかったし、自分のことで手一杯だったこともあり、開かずのダンボールはしばらく見て見ぬふりを決め込んでいた。そのまましばらく放置された後、結局業を煮やしたハナさんが開封し片付けたのだが、ユリコさんはそんなハナさんの姿を他人事のように見るばかり。手伝おうとするでもなく、小さな声で「ごめんねぇ」とつぶやくだけだった。
キレイ好きなユリコさんだったのに、しょっちゅうタンスからものを出して広げたりするようになり、部屋はどんどん散らかっていった。手当たり次第、見える場所にものを置くので、タンスやリビングのテーブルの上などは常にモノで溢れていた。整然としていた引き出しの中も、いつのまにかごちゃごちゃになっていた。
また、ユリコさんは潔癖症に近いくらいの性格で、ちょっとのホコリも見逃さない人だった。毎日家中をピカピカに拭き掃除をするユリコさんに、どちらかといえばズボラなハナさんは尊敬の念を抱いていたほどだ。
引越し先の町田のマンションの部屋はフローリングだったので、引っ越して間もない頃、ユリコさんはワックスがけのキットやフローリング用の掃除用品をたくさん買い込んだ。しかし、買っただけで、ダンボール同様にすべて放置。結局それらは使われることがなかった。
掃除はまったくしないくせに、「掃除をしなくては」という意識だけはあったのか、家族の知らないところで次から次に掃除グッズを買い込んでいたようで、後に家の倉庫から大量の未開封の掃除グッズが出現。ハナさんによると、「同じようなものを大量に買い込む」という行動も、認知症のわかりやすい症状のひとつだという。この「大量に買い込む」行動を含め、次回はキッチンで起こった異変を振り返る。