国が「働き方改革」の旗を振り、企業は右往左往している。だが、世の中はそんな議論を無意味にするほど急激に変わっている。新刊『もっと言ってはいけない』が話題の作家の橘玲氏は「知識社会化」が個人の収入にも大きな変化をもたらすと指摘する。
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私たちを取り巻く世界は加速度的に変化している。その背景には、AI(人工知能)などテクノロジーの性能の指数関数的な向上がある。ブロックチェーン(ビットコイン)やゲノム編集という言葉を聞いたことがあっても、それが自分や子供たちの人生にどれほどの影響を及ぼすかを理解しているひとは多くはない。
テクノロジーは、「働き方」を大きく変えつつある。
NTTでは、35歳までに研究開発の人材の3割がGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)などのグローバルIT企業に年収数千万円で引き抜かれてしまう。これを受けてNTTデータでは、デジタル人材を獲得するための人事制度を新設し、業績連動部分には上限を設けず年収3000万円以上を出すことに決めたという。
横並びが当たり前の日本では大胆な改革にみえるが、ここには大きな誤解がある。日本企業は、他の職種との均衡を重視した年功序列の社員のなかで、「特別」な人材にだけ数千万円出せばいいと考えている。だがGAFAでは、専門職「全員」の報酬がこの水準か、もしくはそれ以上なのだ。
世界じゅうからもっとも優秀な人材を集めてチームを組むというシリコンバレーの発想は、「会社」というより野球やサッカーのようなプロスポーツに近い。知識社会化が進んだことで高い知能を持つ者がアスリートのように扱われ、その稀少な才能を各社が奪い合って報酬が高騰していくのだ。