遠く離れた故郷の両親、長年連れ添った夫が、ある日ボケたら、亡くなったら──いつか来る「その時」に、どれだけの人がうろたえずにいられるだろうか。だが、感傷に浸る間もなくあなたの財産は翻弄され、思わぬ事態が次々と待ち受けている。
親が亡くなれば、故人の口座から引き出すための「手続き地獄」が待っており、面倒なことになる。社会保険労務士の井戸美枝さんは、有料老人ホームに住んでいた母親が亡くなった際、こんなトラブルに見舞われた。
「死後の手続きのことで母が生前メインに使っていた銀行に連絡しました。そこで、『名義人が亡くなった』と伝えると、即座に口座が凍結され、1円も引き出せなくなってしまったんです。事前に葬儀費用の250万円を準備していたので困ることはなかったのですが、現金が手元になかったらと思うとゾッとしました」
しかし、面倒なのはこの後だった。相続コンサルタントの曽根恵子さんが話す。
「凍結された銀行口座から100万円を超えるような大きなお金を引き出すには、故人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本や、相続人全員の戸籍謄本、相続人全員の印鑑証明書などが必要で、遺産分割協議書も添付する必要があります。あるいは、相続人全員で解約などの書類を提出することになります。これが整わない限りはまとまったお金がおろせません」