「減らす」ための計算式
なぜ厚労省は平均賃金を低く見せかけたかったのか。平均賃金は失業給付だけではなく、年金とも関係している。年金額は、「賃金スライド」と呼ばれる平均賃金の変化で調整され、賃金の伸びが低くなれば抑えられる。この計算式も2004年の年金改正で決められた。
厚労省年金局年金課は、「年金の賃金スライドの計算と勤労統計とは全くリンクしていない。今回の不正調査問題が年金の保険料や支給額に影響を与えることは全くありません」と言うが、実は、年金額のもとになる平均賃金の算出方法は勤労統計以上の“ブラックボックス”なのだ。
社会保険労務士でもあり、年金数理に詳しい第一生命経済研究所経済調査部の星野卓也・副主任エコノミストが語る。
「そもそも年金計算における賃金は『前年の物価上昇率』、『実質賃金変動率』、そして『可処分所得割合変化率』という調査の方法も時期も違う3つのデータを組み合わせて算出されています」
細かい説明は省くが、計算結果を見ると、複雑極まりない算出を施す狙いが浮かび上がる。
勤労統計では「賃金上昇」が続いていた期間でさえも、「年金額のベースとなる賃金」はなぜかマイナスになっているのだ。その結果、年金額は低く抑えられていた。
今年から「新・減額装置」が発動
その後も年金改革のたびに減額するカラクリが盛り込まれてきた。最も大きいのはマクロ経済スライドによる計算式の変更だ。
これは年金受給者やこれから受給する新規裁定者の年金額を改定する際、年金生活者が困らないように賃金の伸びや物価上昇に応じて年金額を増やす従来の計算式に「スライド調整率」という数値を加味することで、逆に年金額を毎年目減りさせていく仕組みだ。