だが昨年、62歳で年金の2階部分である「特別支給の老齢厚生年金」の受給が始まると、何やら様子がおかしいことに気付いた。Aさんは本来なら月額8万円を受け取ることができる計算だが、全額カットされてしまったのだ。
働きながら受け取る在職老齢年金は、64歳までは「月給+厚生年金」の合計額が28万円を超えると、超過分の半額が年金から減額される。合計収入44万円のAさんは、超過分が16万円。減額幅はちょうど8万円で、年金がゼロになったのである。
このまま50代の頃と同じようにがむしゃらに働いても、65歳になるまで特別支給の老齢厚生年金は全額カットされ続ける。3年の間に“失われる年金”の総額はなんと288万円にのぼる。
Aさんの働き方は、“年金のもらい損ね”が大きくなる典型例である。一方、同じ図のなかに示したBさんは、正反対の「賢い働き方」をしている。
Aさんと同期入社で、同い年のBさん。定年を迎えた後、雇用延長で週3日のパートタイム勤務を選んだ。月給は40万円から20万円へと大幅に下がったが、オフの日は趣味のカメラを持っての撮影旅行を楽しんでいる。
その働き方はAさんのような人からすれば、「体力があり、少しは無理がきくうちにもっと稼いでおかないと、キリギリスになってしまうぞ」――と批判したくなるものだろうが、年金をもらい始めると、様相は一変する。
Bさんも昨年から年金の特別支給(8万円)が始まったが、月給と年金の合計額が28万円にとどまるため、年金のカットはされず、その全額が支給されている。加えて、「高年齢雇用継続基本給付金(※注)」がもらえる。
【※注/再雇用後の賃金が、60歳時点に比べ75%未満に低下した場合に支給される(65歳以降は支給を受けられない)】
図を見ればわかる通り、多忙なAさんとゆとりある生活を送るBさんは、月給にして16万円もの大きな差があるにもかかわらず、年金などを合わせた総収入は5万円の差しかなくなるのだ。Aさんの明らかな“働き損”であることがわかる。