生活保護受給者は、住居を借りるのが難しい。社会福祉法で定められた生活困難者のための無料低額宿泊所などもあるが、一般のアパートからは敬遠されがちだ。なかには、生活保護費をほとんどまるまる取られてしまうようなブラックな貧困ビジネスの餌食になってしまう例も少なくない。
齋藤さんは、65歳の生活保護受給者の部屋探しに奔走した。区役所に同行し、ケースワーカーと話し、福祉事務所と連絡し合って、何とかアパートを見つけることに成功した。
こんな事例を何例か経験しているうちに、誰も手を付けていない隙間が見つかった。高齢者や生活困難者、シングルマザーなど、部屋探しに困っている人のために、不動産仲介会社を立ち上げようと考えた。それが6年前、横浜市青葉区に設立した「アオバ住宅社」である。
「自分の人生の意味は何か」なんていう問いに惑わされない
齋藤さんの選択で注目すべきところは、まず自分できちんと決定していること。そして、ほんの少しでいいから、誰かのために生きるという意識をもっていることである。彼女は20代で独立したが、これは自分の力試しだった。それに対して、2度めの挑戦は、自分というよりも、与えられた使命に誠実であろうとしている。
65歳の男性は入居先が決まった。しかし、仕事がないと聞いて、元気なおじさんなのにもったいないと思った。アパートの大家さんに話すと、それならうちのアパートの共用部分を掃除してくれないかと、仕事を与えてくれた。
この男性の掃除の仕方は丁寧だった。大家さんは気に入り、自分の家の清掃も依頼するようになった。話はどんどん広がり、清掃業務も請け負うようになった。働き手は10人ほど。時給1000円で、現在、20棟の清掃を頼まれているという。
住居の問題は、さまざまな問題とリンクする。たとえば、6030問題。60代の親と、30代で引きこもりの子どもが同居している状態を指す。それが20年経過すると、8050問題となる。80代になった親は介護が必要になり、引きこもったままの50代の子どもが面倒をみることになる。
ケアマネジャーやヘルパーらが入っていない閉ざされた家庭は、虐待も起こる可能性が高い。親を虐待しながら、親の年金を頼りにしないと生きていけないという何とも複雑な例にもかかわった。
ごみ屋敷問題も経験した。「孤立している人って、本当はさみしがり屋」という齋藤さん。足繁くごみ屋敷に通い、行政とも連携をとりながら準備をすすめ、ごみ屋敷をきれいにして新しい住宅へと引っ越したという。