2020年の東京五輪開催に向けて大いに盛り上がっているが、実際の経済効果はどれほどのものが想定されるのだろうか。かつて米証券会社ソロモン・ブラザーズの高収益部門の一員として活躍した、赤城盾氏が解説する。
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2013年は、近年には珍しく経済的に明るい話題に恵まれた年となった。富裕層向けの高額商品の売れ行きは前年来好調であった。ここにきて、黒田日銀の「異次元緩和」によって円高が抑止された効果で企業業績が全般的に好転。政府の強い要請もあって、来春に賃上げの意向を示す企業も現われ始めた。
そのうえ、9月のIOC(国際オリンピック委員会)総会では、本命と目されていたイスタンブールが政局不安で沈み、降って湧いたように2020年東京オリンピックの開催が決まった。地球の裏側まで応援に出張った安倍晋三首相は正に面目躍如であった。
東京都は、オリンピックの経済効果を開催までの7年間で3兆円と試算している。年当たりにすれば4000億円強で、わが国のGDP(国内総生産)約500兆円の0.1%にも満たない。一方、株を売るのが商売の証券会社の中には、150兆円という途方もない数字をぶちあげたところもあった。
実際の日経平均株価の動きは、開催決定の直後から急伸したものの、9月の上げは10月には早くも剥落した。その後、年末にかけて多少は値上がりしたが、今のところ、株式市場は、証券会社の煽りよりも東京都の試算のほうを尊重しているといえようか。
150兆円は証券会社の営業トークのご愛嬌としても、オリンピックのような大きなイベントの際にマスメディアでよく使われる、この「経済効果」という言葉には注意が必要である。この言葉は、「資産効果」や「乗数効果」などを連想させて、その金額の分だけ「景気がよくなる」すなわち「GDPが押し上げられる」かのような響きを持つ。しかし、マスメディアにおける通常の語義は全く異なる。
たとえば、地方から東京にオリンピック観戦に訪れる一家は、恒例の温泉旅行を取りやめたり、日常の外食や買い物を控えたりすることによって、費用を捻出するかもしれない。一家の消費がGDPの増加に寄与するのは、差額の増加分があった場合に限られる。
ところが、イベントを囃し立てたいマスメディアは、観戦のためのチケット代に加えて旅費、宿泊費、その間の飲食費などオリンピックによるプラスの効果だけをこれでもかとばかりに数え上げ、裏に潜むマイナスの効果には目をつぶってしまうのだ。
実際に景気をよくする効果が確実に見込めるのは、施設の建設と道路整備の公共事業の他は、外国人の観戦旅行くらいのものである。それが日本経済全体に与える影響は自ずと限定的であろう。もちろん、個別の地域や企業の中には、大いに恩恵を蒙るところも多かろう。オリンピック開催に関わる投資の妙味がないというわけではない。
※マネーポスト2014年新春号