習近平氏とのシナリオの確認は?
気になることが一つある。中国はこのシナリオを受け入れるのだろうか。
中国は元来、通商国家である。共産党トップから末端の市民に至るまで、商人気質の塊のような国民性である。追加関税は短期的にはアメリカの消費者にそのまま負担がかかり、経済や、株式市場に大きな悪影響があることを見抜いている。
今回、大豆やLNG(液化天然ガス)など1兆ドル規模の輸入を拡大するとしているが、中国は交渉の初期から、輸入の拡大によって問題を解決しようとしており、サプライズはない。人民元安誘導をしないことに合意しているが、輸出主導型から内需拡大型へと経済構造転換を図る中で、緩やかな人民元高は国策にかなっている。一方で、対中強硬派が最も強く要求している産業政策における国家関与については、まったく譲歩していない。
もっとも、中国にとって、アメリカからの適度な圧力は為替市場改革、対外開放政策、国際化、自由化政策を進める推進力となる。さらに、企業に危機感を与えることで経営努力を引き出す効果も期待できる。
トランプ大統領と習近平国家主席は阿吽の呼吸ではなく、密室での会談を通して、シナリオの確認がしっかりととれているのではなかろうか。
もちろん、シナリオ通りにいかないのが政治、経済の真剣勝負なのだが、大統領就任後のNYダウ指数、NASDAQ指数の動きだけをみると、トランプ大統領のシナリオ通りに進んでいるようにもみえる。はたして今後もシナリオ通りに動くのか。世界中の投資家の視点はそこに向いている。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うTS・チャイナ・リサーチ代表。メルマガ「田代尚機のマスコミが伝えない中国経済、中国株」(https://foomii.com/00126/)、ブログ「中国株なら俺に聞け!!」(http://www.trade-trade.jp/blog/tashiro/)も展開中。