実際、2017年度の課税件数は2014年度と比べて2倍に増えた。税理士の岡野雄志さんが話す。
「相続税を回避するのに有効なのは、『生前贈与』しておくこと。なぜなら、相続財産をあらかじめ減らしておくことが何よりの相続税対策になるからです」
相続税対策だけではない。家族が笑顔で遺産を相続するためには、親族間のトラブルを未然に防ぐことが必要だ。生前なら本人の希望を家族に伝えられるし、家族も受け入れやすい。しかし、故人になってからでは親族がそれぞれの権利を主張して、対立するケースも多い。
また、生前に準備しておかないと、亡くなった瞬間に“消えてしまうお金”も存在する。その生前贈与と名義変更、死んでからではもう遅い──。
不動産「共有名義」の放置は絶対にやってはいけない
現金ならば、何人の相続人がいても分けるのは簡単だ。株式だってそう。でも、不動産は分割できないから厄介だ。東京都在住の58才主婦・高松さんが話す。
「埼玉でひとり暮らしをしていた父の死後、空き家になった自宅の相続手続きのため法務局に行くと、父と叔父の共有名義になっていることがわかりました。
持ち分は父が3分の2、叔父が3分の1。叔父は5年前に他界しており、本来は子供である従妹と従兄が手続きをするはずですが、放置していたようです。
家を3つに分けることはできないし、空き家をそのままにもできないので、自宅売却のため2人に話し合いを持ちかけましたが、何十年も連絡を取っていなかった上に、そもそも父と叔父は相性が悪かった。2人は『二束三文にしかならないなら売らない』の一点張り。手続きも面倒なようで名義変更にも応じませんでした」
結局、高松さんの話し合いは平行線のまま頓挫した。自宅は売却も解体もできず、固定資産税を支払って1年経つという。相続コンサルタントの曽根恵子さんが話す。
「不動産の相続で最ももめやすいのが『共有名義』です。特に、高松さんのように兄弟間で共有名義にしていた場合はトラブルのもと。分け方が決まらないからと『一時しのぎ』で共有名義にすると、その後、何をするにも兄弟の合意が必要になります。
兄弟2人の間の意見の対立ならまだしも、不幸にも兄弟ともに亡くなってしまうと、その配偶者と子供たちが相続人になり、話し合いの当事者が一気に増え、収拾がつかなくなってしまいます」