本書では、そのことをていねいに論証している。メディアが作り上げた「銀行悪者論」の下で、銀行業界を救うためには悪者がどうしても必要だった。そこで、河谷元頭取がスケープゴートにされたのだ。確かに、当時から、「拓銀なら、つぶしても影響は道内中心で収まる」という声が私の耳にも入っていた。
ただ、本書で私が一番大きな関心を持ったのは、破綻に先立つバブル発生の要因だ。バブル期には、日銀の窓口指導で、各行に前期比3割増といった大きな貸出枠が与えられたと河谷元頭取は証言する。それが事実上のノルマとなり、円高不況で融資先に窮した銀行が、不動産関連融資に頼らざるを得なくなった。拓銀がソフィアグループやカブトデコムへの融資にのめり込んだのも、そうした事情のためだった。
河谷元頭取は、自身の責任を認めたうえで、拓銀破綻の責任を負うべき元同僚の名前を複数挙げている。しかし、彼等は、いわば実行犯であって、バブルを発生させたのも、その後銀行を次々に破綻させたのも、主犯はやはり日銀だったのではないだろうか。
いずれにせよ、本書は、平成を振り返る時に欠くことのできない歴史資料であると同時に、転換期の犠牲者となった男の波瀾万丈人生を描く、読みものとしても面白い、秀逸なドキュメンタリーだ。
※週刊ポスト2019年3月15日号