数日後、機材を持った警察官がPさん宅を訪れ、高性能カメラがベランダに設置された。電池式ではなかったため、電源はPさん宅のコンセントから給電することに。そこから数か月、カメラとの不思議な共同生活が始まった。
「相手の素性もわからないし、最初の1~2週間はただ怖くて、夜寝付けませんでした。襲撃されるかもしれないとドアチャイムは基本無視し、普段はまったく気にならない物音に、ビクビクする毎日。近所のコンビニでフルフェイスのバイカーを見ただけで、『襲われる』と勘違い。親しい友人には『俺が万が一消されたら、SNS上で告発してほしい』と伝えるなど、被害妄想にとらわれる毎日が続きましたが、少し経つとカメラのある生活にも慣れ、家に来た友人に対してもネタに出来るようになりました」
警察官からは時折安否確認の電話があったが、特に変化のない日々が続いた。しかし十分な証拠は見つからず、設置から3ヶ月ほど経ってカメラを撤去する日が訪れた。
「その頃には、少しだけ警察官とも仲良くなっていました。最後の日はちょっとだけしんみりした気持ちに。すべての作業を終えて、別れの挨拶をしようとした時、かばんの中から『実は……』と警察官が封筒を取り出したのです。封筒の中身は、1万円。領収書の但し書きには、『電気代』と書かれていました。確かに、私が行っていたのは捜査協力というより、ただ“コンセントから電源を提供していた”だけなんですよね」
思わぬ副収入を得たPさん。今後も同様の依頼があった場合、なるべく警察に協力するつもりだそうだ。