「会計時に領収書をもらう必要があり、ただし書きをどうするか聞かれたので『書籍代でお願いします』と答えました。すると、途中まで記入したところで店員の手がピタッと止まってしまった。どうしたのかな、と覗き込むと、『籍』の字が思い出せないようでした。困った彼は、最終的にたけかんむりの下のところを雰囲気でグチャグチャっと書いてごまかそうとした。隣にいた別の店員がそれを見とがめて、代わりに書いてくれましたが、書店に勤めているのに『書籍』を漢字で書けないことに、残念な思いがしました」
「簡単な暗算ができないレジ店員」「漢字の書けない書店員」──買い物や外食をする中で、簡単なやり取り(お金の受け渡しや二言三言の会話など)がどうもスムーズにいかない、という実感を持つ人は多いのではないか。
雇用の現場からは、むしろ、不慣れな日本語ながらもコンビニや飲食店などでの接客をこなせる外国人留学生のほうが日本人バイトよりも優秀だ、といった声すら聞こえてくる。なぜこのような現象が起きているのか。
コンビニ各社が24時間営業を見直すほど人手不足が顕在化し、採用側が就業希望者の向き・不向きにかかわらず雇わざるを得ない状況があることも答えの一つではあるだろう。飲食チェーンを中心に“バイトテロ”が相次ぐことにも、人手不足や低賃金への不満といった雇用情勢が背景にあると指摘する識者の声もある。
一方で、雇用情勢とはまったく異なる背景があることを窺わせるデータが提示されている。
国立情報学研究所教授の新井紀子氏は、著書『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』で、自ら考案・実施した読解力調査により日本の中高生の多くが「教科書の記述を読み取ることができない」現実がある、と報告している。
新井氏はその中で、今の中高生が前の世代と比べて劣るわけではないとし、〈中高生の読解力が危機的な状況にあるということは、多くの日本人の読解力もまた危機的な状況にあるということ〉であると警鐘を鳴らしている。
実際、2013年にOECDが公表した「国際成人力調査」によると、日本は「読解力」「数的思考力」「ITを活用した問題解決能力」の3分野すべてで24か国中1位となったものの、読解力の習熟度別では日本の成人(15~65歳)の27.7%が、レベル2以下(レベル3の例題「図書館のウェブサイト上の資料検索結果から、指定された書名の著者を探す」ことができないレベル)だった。