Bさんは、もともと家事が得意ではなかっただけに、「自家製」「自然派」「素材へのこだわり」といったキーワードに強い憧れを持っていたという。それは、祖母と母親の2代にわたって家事が得意で、丁寧な暮らしを地で行くタイプだったことに起因する。
「家事スキルが低い私は、何となく劣等感がありました。価値観は人それぞれだとは思いますが、丁寧な暮らしが実践できていないのは、自分はだらしないからだと思っていました」
Bさん曰く、「丁寧な暮らしは、時間だけでなく、案外お金の負担も大きかった」という。具体的には、週末の常備菜づくりは当たり前。炊飯器があるのにあえて土鍋でご飯を炊いたり、自家製酵母でパンづくり、ぬか漬けづくりなどもした。
家具は安物ではなく、できる限り良質な物を選択し、衣類も素材にこだわったオーガニックコットンやリネンなどを取り入れた。既製品だけでは物足りず、鍋つかみやエプロン、クッションカバーなどの日用品のハンドメイドにも挑戦した。加えて、丁寧な暮らし“らしさ”を求めては無印良品によく通い、収納グッズをすべて無印良品のもので揃えることで、“丁寧感”を味わっていた。
そういった暮らしぶりの成果をSNSにアップすることも欠かさなかった。Bさんは「今思えば、あえて手間をかけることにこだわっていて、その発表の場がSNSだった。褒めてほしかったんです」と振り返る。しかしBさんは、こうした丁寧さは精神面でかなりの負担だったと言う。
「私は、丁寧な暮らしの本質は、日々の生活を見直すことを通して、自分や家族を大切にすることだと思います。それなのに、私はいつの間にか丁寧さが義務感となり、苦痛になっていました。“こうしないと丁寧じゃない”というルールに縛られていた気がします。これからは丁寧さ=完璧だと捉えずに、自分にとっての快適さを追求したいと思います」(Bさん)
苦痛にもかかわらず無理して続けるのは本末転倒。丁寧さが仇とならないように気をつけたい。