「税理士さんに相談しながら、姉と私と夫たちみんなで探り探り、母からの引き継ぎを行いました。父は見事なくらいノータッチで、すべて子供たちにお任せです。
お寺の息子だった父は、人の生死や老いについては一家言あり『大往生』という本も書きましたが、事務的な死の備えにはまったく無関心。おかげで、母からの引き継ぎが完了した時点で父の財産関係はすべて把握できていました。今考えると、父が一切を私たちに任せたことで、結果的には生前整理になったのかもしれません」(麻理さん)
昌子さんの死から8年後、永さんはパーキンソン病や前立腺がんを患う。転倒して大腿骨頸部を骨折したことから、車いすの生活となった。2016年の七夕に永さんは肺炎で永眠したが、お金に関しては死後も大きな混乱はなかった。
「よく親のカードの暗証番号や印鑑の場所を把握することが大変だといわれますが、父はATMや銀行の窓口に行ったことすらなかった(笑い)。遺言もありませんでしたが、“父なら公平性を第一にしただろうな”と考えて、相続はできる限り公平に。ただ、蔵書やノートなど膨大な遺品に埋もれた実家は、引き継いだ姉が今もコツコツ片づけています」(麻理さん)
遺言について、永さんは生前ラジオで、〈ぼくは毎年元旦に遺言書を書き直しているんだ〉と語ったことがあった。しかし、ある時から、「自分が死んだ後のことをああしろ、こうしろと書くのは、遺った人の負担になるだけ」と考えを改め、遺言を書くのはやめたという。
そんな永さんが唯一、娘に伝えていたのは、なんとも永さんらしい望みだった。
妻のお骨をずっと自宅に置いていたので、〈ぼくが骨壺になったら、昌子さんの骨壺との間に本を並べて、ブックエンドにしてね〉
娘たちは父の「遺言」に従い、両親の骨壺の間に著書を並べてから、納骨を済ませた。
※女性セブン2019年3月28日・4月4日号
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