「第1の方法」で雇用延長期間に保険料を払い続けるケースで注意しなければならないのは在職老齢年金の減額調整だ。
働きながら受給する「在職老齢年金」は、年金と給料の合計収入が一定金額を超えると年金がカットされる。保険料を長く払おうと意気込んで定年後も働いていると、本来受け取れるはずの年金を減額されてしまい、“こんなはずでは”と泣きを見ることはよくある。
「第2の方法」の繰り下げ受給の落とし穴は、年金が増えたことで、税金や社会保険料ががっぽり天引きされるというポイントだ。
そうした落とし穴にはまることなく、生涯の年金総額で「得する」ためには、受け取り方に工夫がいる。
一見、損するように見えても、第1の方法と第2の方法とは逆に、「保険料を払わない」という選択や、65歳より早く年金をもらう「繰り上げ受給」を選んで、あえて受給額を減らしたほうが生涯の収支で得をするケースがある。
では、具体的にどうすればいいのか。トータルで得をする「年金の賢い選択方法」を見ていこう。
「年金保険料を払わない」で93万円得する
定年後の働き方で、保険料を多く納めて「年金を増やそうとした人」と、保険料を払わずに「年金を増やそうとしない人」はどちらが得なのか。今年62歳のAさんとBさんは定年後、再雇用で同じ月収(25万円)で働き、来年63歳になると特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分の月10万円)を受給することができる。
年金受給額を少しでも増やしたいAさんはそのまま会社員として厚生年金に加入し、毎月の保険料2万3790円を支払い続けるつもりだ。一方、Bさんは特別支給の開始に合わせて会社と「業務請負契約」を結んで自営業者となり、厚生年金からの脱退を考えている。そうすれば「早期受給」できる年金を丸ごともらえるし、毎月の保険料も払う必要はなくなる。
2人が65歳になって年金の満額受給が始まると、当然、年金支給額そのものは保険料を長く納めたAさんの方が多くなる。だが、ここに落とし穴がある。社会保険労務士の稲毛由佳氏が語る。
「Aさんの65歳からの年金受給額はBさんより年間3万円ほど多くなります。男性の平均寿命(81歳)までの16年間の合計では約48万円の差がつく。ただし、Aさんは2年分の保険料約57万円を余分に支払っているため、それを差し引くと実はBさんの方が得をしているのです」
実際の年金の差はもっと大きくなる。この金額には「在職老齢年金」の減額が加味されていないからだ。