日銀の金融広報中央委員会が行なった「家計の金融行動に関する世論調査(平成29年)」によると、老後の最低予想生活費は月27万円となっている。一方で、別の調査では、継続雇用者の4割が「定年直前の半分以下まで年収が減った」と回答している(明治安田生活福祉研究所、「50代・60代の働き方に関する意識と実態」、2018年)。
フルタイムの現役時代から収入が半減するとなれば、再雇用の給料だけで生活費を捻出するのは困難だ。
そうしたなかで選択肢として浮上してくるのが、年金の「繰り上げ受給」である。前述の通り、通常は65歳受給開始の年金を、減額と引き換えに前倒しで受け取る制度で、最大限60歳まで繰り上げると、毎月の受給額は30%減額となる。
「注意したいのは、働いている夫が繰り上げ受給を選択すると、在職老齢年金によるカットにも引っかかり、“二重の減額”になってしまう恐れがあることです。
そこで、考えたいのが『妻の年金の繰り上げ』です。専業主婦の妻が基礎年金の受給開始を前倒しするぶんには、夫にどれだけ給与所得があっても、年金がカットされることはありません。厚労省の標準モデル(夫婦で年金22万1504円)で考えれば、妻が60歳まで繰り上げた場合の受給額は月額約4万5000円になります」(前出・北村氏)
たとえば、夫が月給25万円の再雇用で働いていて、老後の生活費の目安となる「月27万円」に少し届かないケースを考えてみる。
「妻の繰り上げ」で月4万5000円収入が増えれば、家計の赤字を埋めることが可能になる。一方、同じケースで、「夫の繰り上げ」を選んでしまうと、赤字を埋めるために失う年金額が一気に大きくなる。
厚労省の標準モデルを基準にして考えると、夫が65歳から受け取れる年金は月額約15万6000円。それを60歳から繰り上げ受給すると、10万9000円まで減額されてしまう上に、毎月の給料が25万円あると在職老齢年金で「月額約4万円」の年金カットとなる。65歳から受給した場合に比べて、年金は月額9万円も削られてしまう。