中には、ほとんどの日本人が知らない過去の元号のいわれを詳しく説明しているメディアもあった。以下、中国メディアによる過去の元号についての解説だ。
「明治」は、「易経」の“聖人南面而听天下、向明而治”が由来である。「聖人が南を向いて(北を背にして南を向くといった正しい姿勢で)天下(世界)に耳を傾ければ、天下は明るい方向に向かって治まる」といった意味。
「大正」は、「易経」の“大亨以正、天之道也”が由来である。「政治を行う者が、遮ることなく何でも聞き入れることを正しいとすれば、それは天の道である」という意味。
「昭和」は、「尚書」の“九族既睦、平章百姓、百姓昭明、協和万邦、黎民於変時雍”が由来である。「九族が仲睦まじくし、ほかの各族の政(まつりごと)をしっかりと観察し、多くの族の政の違いをはっきりと識別し、多くの諸侯が協調すれば、天下の民衆は変化し、友好を感じ、仲睦まじくなる」という意味。
「平成」は、「史記、五帝本紀」の“内平外成”、および、「尚書」の“地平天成”が由来。「内部を平定すれば外部との関係も成功する。治水をしっかりと行うことができれば、世界もうまく納められる」という意味。
このように、過去の元号はいずれも中国古典(漢籍)を典拠としているが、令和は初めて日本古典(国書)を典拠にしたものだ。ただし一方で、中国の古典の中にも同じような表現があると報じられている。
万葉集は約1200年前に編纂されたが、それよりも古い約1300年前に、唐の宰相(最高行政長官)であった薛元超が書いた「全唐文」に収められている「諫蕃官仗内射生疏」の中に“時惟令月、景淑風和”といった表現がある。さらに、1800年前に張衡老が書いた「帰田賦」の中に“仲春令月、時和気清”といった表現がある。そのほかにも、令和といった表現は、さらに古い文献の中からも探すことができるという。
当時、中国の知識人は、オリジナルの詩を作るときに過去の優秀な詩の一部を上手く引用することで、教養の高さを示すようなところがあったそうだ。おそらく、大伴旅人は一流の文化人であり、漢文全般に関する深い教養があったのだろう。中国古典の影響を強く受けつつ、日本人のオリジナルに昇華させ、それが時を経て、新たな元号として用いられるようになったことは、非常に興味深い。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うTS・チャイナ・リサーチ代表。メルマガ「田代尚機のマスコミが伝えない中国経済、中国株」(https://foomii.com/00126/)、ブログ「中国株なら俺に聞け!!」(http://www.trade-trade.jp/blog/tashiro/)も展開中。