「年金の常識」には間違いが多い。その代表が年金を減額されても早くもらう「繰り上げ」より、元気で働けるうちはできるだけ年金を我慢し、受給を遅らせて割り増し年金をもらう「繰り下げ」の方が得だという考え方だ。
新聞やネットの年金記事では、根拠として年金総額の「損得分岐点」を寿命で計算する方法が紹介されている。65歳の年金額を基準にすると、60歳から繰り上げ受給すれば毎月の年金額は30%減額され、逆に70歳まで遅らせると年金額は42%割り増しされる。
60歳受給、65歳受給、70歳受給の3パターンで年金総額を比べると、75歳までは早くもらう60歳受給が最も多いが、「76歳」になると65歳受給が追い抜き、「81歳」で70歳受給が2人を抜いて逆転する。日本人の平均寿命は男性約81歳、女性約87歳だから、「70歳受給を選べば年金総額は最大になる」という説明だ。
鵜呑みにすると、「繰り下げは得」「繰り上げは損」という誤解につながる。実際、「60歳から年金をもらうと元気なうちはいいけど、受給額が減るから長生きすると損するよね」と考えている人は多いはずだ。
だが、冷静に考えてほしい。年金総額を増やすために70歳受給を選択するのは、「自分の寿命」を賭けてハイリスク・ハイリターンの大博打を打つに等しい。
「そもそも年金受給を何歳まで生きたら損か得かで判断するのが間違っている」
そう指摘するのは「年金博士」として知られる社会保険労務士の北村庄吾氏だ。