給料を「退職金」に振り替えるという選択
「在職老齢年金」がカットされない方法は他にもある。定年後に会社と「業務請負契約」を結ぶのはハードルが高いという人は、社員として働きながら、給料の一部を完全リタイアするときに「退職金」として受け取るのだ。
前述のAさん(月給25万円)のケースであれば、そのうち17万円を月給、残りの8万円は退職金として中小企業退職金共済などに積み立ててもらう。厚生年金には加入することになるものの、給料と年金の特別支給10万円の合計収入は27万円となり、年金カットされない。給料額面が下がる分、年金保険料も毎月8000円ほど安くなる。
北山氏は「この方法は会社にもメリットがある」と指摘する。
「給料が下がれば、労使折半の社会保険料も安くなるため、会社側は社会保険料の事業主負担を減らせるわけです。しかも、会社が本来払うつもりだった給料との差額月8万円を中小企業退職金共済などに積み立てれば、損金扱いになるので法人税も圧縮できます」
この退職金振り替え方式は、社員は「年金をカットされず」に会社は社会保険料負担を減らせるというウィン・ウィンの関係になる。
図を見ていただきたい。Aさんが「早くもらえる得する年金(特別支給)」が始まる63歳から70歳まで働く場合、従来通り「給料25万円」もらえば天引きされる年金保険料と年金カットの合計は284万円。
それに対して、給料の一部を退職金にすると年金保険料は約130万円に下がって年金カットもされない。
「保険料を多く払ったぶん、すべて給料としてもらったケースのほうが65歳からの年金額は年額1万2000円ほど多くなりますが、それを踏まえても63歳から70歳までの間、受給額から保険料を引いた“年金の収支”では、一部を退職金に回すもらい方のほうが約148万円も得になります」(北山氏)
年金受給期間が長くなっても、「退職金方式」が得することがわかる。
※週刊ポスト2019年4月26日号