《賃金水準、世界に劣後 脱せるか「貧者のサイクル」》──この3月19日、日経新聞の1面にそんな記事が掲載され、衝撃が広がっている。
「労働者1人の1時間あたりの賃金」は、この20年間でイギリスは87%、アメリカは76%、フランスは66%、ドイツは55%も増えた。韓国は2.5倍になった。ところが、日本だけが9%減り、主要国の中で、唯一のマイナス。日本人は「国際競争力の維持」を理由に、国や企業から賃金を減らされ続けてきた―─という内容だ。
令和フィーバーは、新時代への期待感の表れだ。改元によって平成時代が抱えた閉塞感をリセットしてほしいという切なる願い。しかし、お祝いムードの中で、日本が犯した「平成の失敗」を忘れ去ってしまうのなら、また同じことが繰り返されるに違いない。
安倍晋三首相がいくら「全国津々浦々に景気回復の温かい風が吹き始めている」と熱弁しても、「戦後最長の景気拡大」と喧伝しても、平成の30年間を通じて、日本人は確実に貧しくなった。特に犠牲になったのは女性だ。それは紛れもない事実である。
伏し目がちに淡々と話すのは、東京郊外で暮らす青木敬子さん(仮名・42才)。自動車メーカーの事務職で、非正規雇用で働く独身女性だ。青木さんが語る。
「もう20年ほど前になりますが、4年制の大学に通っていました。就職活動は1990年代後半で、まさに『就職氷河期』といわれていた頃。新卒採用は非常に厳しい時期だったこともあり、100社以上に応募して全部ダメでした。結局、卒業後はアルバイトで働くことになりました」
平成になる3年前の1986年、男女雇用機会均等法が施行された。女性の社会進出が一層進み、経済的に自立する女性が増えたように見える平成だが、その実、働く女性の半数は派遣社員や契約社員、パート、アルバイトなどの非正規雇用で、収入は極めて低い。青木さんも例外ではない。