令和を迎え年金改悪の議論が始まっている。政府は今後、「繰り下げ受給が得」というキャンペーンをさらに拡大していくだろうが、鵜呑みにしてはいけない。
実は受給開始年齢が65歳以降に引き上げられていく時代に突入したら、「健康なうちに年金を受け取る」ことを優先する人にとって、むしろ“繰り上げのメリット”が、より大きくなる。
日本人男性の健康寿命は72歳だ。図の通り、現行制度下でも、「健康寿命までに受け取れる額」について、「65歳受給開始」と「60歳繰り上げ」を比べると、繰り上げのほうが約268万円も多い。これが70歳受給開始時代を迎えた時、同様に「70歳受給」と「65歳繰り上げ」を比べると、差は約556万円に広がる。
政府が支給開始年齢を引き上げるほどに、“元気なうちにもらうための繰り上げ”は有力な選択肢となる。
75歳繰り下げは「211万円の壁」を越えさせる罠
75歳繰り下げを選べば年金額は84%増となるが、税・保険料が大幅負担増となり、手取額は思ったほど増えない。なぜかといえば、長期の繰り下げを選ぶと、もともとの受給額が少ない人でも「住民税非課税世帯ではなくなる」という“落とし穴”があるからだ。
東京23区などの大都市圏の年金生活者は年収211万円という住民税非課税世帯の「壁」を越えると、住民税が課税されるだけでなく、社会保険料負担が一気に大きくなり、医療費や介護費の面でも様々な特典を受けられなくなる。