「忠誠心」が「求心力」を生む
サントリーの企業風土の特色は、社員の創業家へのロイヤルティー(忠誠心)が高いことだ。サントリーは、創業家が経営権を握るからこそ、求心力が高まる企業といえる。創業家の社長就任に反対する声は、社内にほとんどない。世襲企業にありがちなワンマン経営者の老害、兄弟間の権力争いとも、いまのところ無縁だ。
サントリーは、今後の成長に向けて、さらなるM&A、あるいは新興市場への展開が求められるが、信宏氏が、創業家出身の社長としてリードすれば、社員の求心力は高まり、グローバル戦略は、一段新しい段階に突入できるだろう。
2019年1月に開かれた国内酒類事業の方針説明会では、信宏氏が、説明者として壇上に立った。
「新たなお酒の飲み方、楽しみ方を提案し、お酒の新しい需要を創造してきたことは、われわれの強みです。最近でも、プレミアム商品、ハイボール、缶チューハイなどで新しい需要をつくり出し、国内酒類市場の活性化を牽引してきたものと自負をしています」
と、語った。着実に実績を積み重ねている。“大政奉還”は、いつあってもおかしくない。
そのタイミングは、新浪氏の社長任期6年、すなわち2020年が、一つの区切りになるのではないか。国内は、この5月の改元に続き、東京五輪・パラリンピックと行事続きで落ち着かない。と考えると、“大政奉還”は、満を持して五輪後と考えるのが無難だろう。
●文/片山修(経済ジャーナリスト)
※週刊ポスト2019年5月3・10日号