今年3月1日付の1つの人事が話題を呼んだ。イオングループでオーガニックスーパーを展開するビオセボン・ジャポンの社長が交代したのだが、就任したのは弱冠35歳の岡田尚也氏。岡田元也社長の長男である。
元也氏は社長に就任する際、「世襲は自分限り」と発言していた。だが、グループ社員の誰もが、その言葉を信じていない。子会社とはいえ長男を社長に据えたことに、世襲に向けて着々と布石を打っているとの見方が支配的だ。
かつて、ダイエーを創業した中内功氏は、世襲を否定していたが、最後は自分の子供への禅譲を夢見た。危機に直面して、多くの社員も創業家への「大政奉還」を半ば期待した。創業者のようなカリスマ性と卓越した決断力を危機に際して発揮してくれるのではないか、と願ったからだろう。
流通業界は少子高齢化や人口減少の影響もあり、生き残りに向けた厳しい取り組みが不可欠になっている。そんな時だからこそ、創業家の世襲を、社員も世間も許していくのだろう。
●文/磯山友幸(経済ジャーナリスト)
※週刊ポスト2019年5月3・10日号