第2の課題は、「消しやすさ」の追求。筆ペンという製品の特性上、一度に大量のインクを使うことになり、サッと消すのが難しい。それでは、気軽に練習するというコンセプトから外れてしまう。専用のイレイサー(ホワイトボード消し)を使わず、家庭にあるティッシュペーパーで消すという方法を採用することに決めて、インクの調整を行った。
第3の課題は、消しカスのまとまり感を出すこと。通常のマーカーは、ホワイトボードを立てた状態で使用することが多い。そのため、消しカスは自然と下に落ちる。しかし、『消せる筆ペン』はシートを机上に置いた状態で使用するため、消しカスの行き場がない。ティッシュペーパーで拭える程よいまとまり感を出す必要があった。
試作を繰り返し、およそ1年半で3つの課題をクリアするインクが完成した。
一方、筆の開発にも苦労があった。通常の書道では、紙が筆をホールドしているため、とめ・はねの表現ができるが、ツルツルした材質のシートやホワイトボードでは筆が滑り、そうした表現が難しい。動物の毛を試したり、化学繊維の割合を変えてみたり、カットの仕方を変えたり…10パターン以上もの試作を行った。
発案から3年。2018年にようやく発売に至った。家庭での書道練習用に開発されたものだったが、認知度を上げるため、近隣の小学校の授業で実験的に使ってもらうことにした。筆ペンという大人っぽい道具に子供たちは大いに盛り上がり、それが消せるということがわかると、盛り上がりは最高潮に。開発担当者が期待した以上に、子供たちが「楽しい!」と喜ぶ姿が目立った。
小学校の書道の授業では、練習用半紙の枚数に制限を設ける学校もあるため、何回も練習できる筆記具は画期的だ。便利でエコな『消せる筆ペン』が、小学校の授業で当たり前のように使われる日がいつか来るかもしれない。
※女性セブン2019年5月30日号