英国のキャメロン首相の亡父、中国の習近平国家主席の義兄、ロシアのプーチン大統領と親しいチェロ奏者など、世界各国の首脳や著名人の関係者がこぞって資産隠しに走っていたことを白日の下に晒した「パナマ文書」。これまで秘密のベールに包まれてきたタックスヘイブン(租税回避地)におけるペーパーカンパニー設立を手がけてきた中米パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」から流出した極秘資料が世界を揺るがせている。
同文書には過去40年近くにわたって作られた1150万点もの電子メールや文書類が網羅され、アクションスターのジャッキー・チェンや史上最高のサッカープレイヤーといわれるメッシなどの関係会社の名前も挙がっている。そのなかには日本の約400の人や企業も含まれているとされ、ICIJ(国際調査報道ジャーナリスト連合)は5月10日にその実名を公表するという。
この「パナマ文書」によって、再び注目を集めている本がある。それが、フランスの経済学者、トマ・ピケティ氏が著し、昨年ベストセラーとなった経済本『21世紀の資本』だ。ファイナンシャルプランナーの藤川太氏(家計の見直し相談センター)が語る。
「同書がいちばん注目を集めたのは、世界的な格差の拡大の分析についてでしたが、それ以外にも、タックスヘイブンに保有されている富裕層の金融資産が少なくとも世界のGDP(国内総生産)の8%に相当するというデータを示しています。その額は世界のGDP約8000兆円に対し、ざっと640兆円に上るとしています。公式統計では日米欧などの富裕国の金融資産の純ポジションはGDPのマイナス4%なので、タックスヘイブンの存在が富裕層の資産を隠すことにいかに貢献しているかを示しています」
それだけではない。藤川氏が続ける。
「同書では、ますます加速する世界的な格差拡大を解消するために、資本そのものに対する世界的な累進課税を強化すべきだと提言しています。それも一国だけではより税率の低いタックスヘイブンに逃げてしまうだけなので、世界中が連携した組み合わせが理想としています。パナマ文書の暴露によって、世界各国の税務当局が連携して富裕層の資産を明らかにするというピケティ氏の提言が現実味を帯びようとしているのです」
「パナマ文書」によって動き出した世界の税務当局の対応は、すでにピケティ氏の著書によって「予見」されていたのである。