熊本地震を境に、改めて「地震保険」が注目を集めている。地震保険は、1994年末時点で9%だった世帯加入率が、2014年には28.8%と約3倍になっているのだ。しかし、2017年1月より、「保険料の値上げ」と「被害の認定基準が“格下げ”される(と想定される)」という制度改定が待っており、「制度改悪」との声も出ている。
とはいえ、現状で地震保険が最大のリスク回避手段であるのは間違いない。
地震保険は官民共同で運営されるため、どの損保会社でも補償内容や保険料は変わらない。問題は、「どういった人が入るべきか」という点に尽きる。自分の住んでいる地域が重要だと話すのは経済ジャーナリストの荻原博子氏だ。
「自分の居住地の地震リスクや来年からの保険料変動を考慮すべきです。保険料が上がる地域に住んでいて加入を望むのであれば、低い保険料で済む今年中に加入すること。その際、1年契約でなく、5年分の保険料を一括で支払うと4.45年分の保険料で加入できるのでお得です」
先に保険料の値上げについて触れたが、地域によっては下がるケースもある。
地震保険の保険料は、木造か非木造かの「建物の構造」と、「住居の所在都道府県」によって変わる。後者については各都道府県の地震発生リスクを基に、3段階に区分けされている。これも来年変更される。
最もリスクの高い「3等地」に分類された8都県のうち、東京都や神奈川県の保険料は来年の改定で11.4%増となり、南海トラフに接する高知県や徳島県は14.4%増となった。対して、「2等地」にランクダウンする三重県や和歌山県は15.3%減となる。
保険額の増減によっては今年加入するメリットがあると言える。オールアバウト損害保険ガイドで平野FP事務所代表の平野敦之氏が挙げるのは住宅ローンの残債が多く残っている人である。
「家やマンションを買ったばかりで被災すれば、自宅を失った上に、住宅ローンは丸ごと残るといった最悪の事態に陥りかねません。被災後、ローンだけでも軽減できるよう備えとして地震保険を活用したい」
住宅ローンを組んでしばらくの間は、保険料は高いが手厚い内容の補償に入り、ローン残高が減るのに合わせて保険金額を減らすのも一つの手だ。
預金や財産の少ない人も地震保険に加入したほうがいいという。蓄えがなければ、被災してすぐに生活は追い詰められるが、地震保険で当面の生活資金を賄えれば、苦境も回避できる。
「収入源が1つに集中している人も加入の必要性は高いでしょう。自営業だと被災時に家を失うと同時に収入も断たれる可能性が大きい。会社員でも震災後、勤務先が事業をすぐ再開できるかなど未知数の部分があります。被災後の収入をいかに確保するかは切実な問題です」(平野氏)
逆に、ローン返済が済み、預金もあり地震リスクの低い地域に住んでいる人は、地震保険によるメリットはそれほど大きくない。いざという時に後悔しないためにも、いまこそ再考するいいタイミングなのではないだろうか。
※週刊ポスト2016年5月20日号