たとえば、アップルの主要なサプライヤーで、グローバルに半導体チップを提供しているブロードコムは14日、ファーウェイ(華為技術)への輸出規制、米中貿易摩擦の激化などから、今期売上予想を20億ドル引下げ225億ドルに下方修正した。これはブロードコムだけの問題ではない。半導体産業全体で悪影響は免れないだろう。
大手電気自動車メーカーのテスラは、130社余りのサプライヤーから部品を調達しているが、その内、半数以上が中国企業である。追加関税率の引き上げ措置による生産コストの上昇は免れない。これらの自動車部品は中国以外の国の企業から調達することは難しく、また、調達できたとしても、量の確保は難しく、コストは著しく上昇してしまう。そのほかのアメリカの自動車メーカーでも、程度の差はあるが、追加関税率の引き上げは収益を圧迫する大きな要因となるだろう。
アメリカ企業、特にグローバル企業、ハイテク企業などが米中貿易摩擦の影響を大きく受けることになる。こうした企業がアメリカ経済の成長を牽引していることから考えると、米中貿易摩擦の激化はアメリカにとってデメリットも小さくないだろう。
しかし、トランプ大統領にとってはどうだろうか。
グローバル企業、ハイテク企業のトップ、幹部、従業員の多くは、民主党を支持しており、彼らはよほどのことがない限り、トランプ大統領支持に変わることはないはずだ。ならば、彼らに不利益となる政策をとったとしても選挙への影響は小さく、“中国たたき”は、トランプ大統領の支持基盤である中西部の白人中間層の強い支持を得られる政策であるとすれば、積極的にやるべきと考えるはずだ。
米中貿易摩擦は、表面上は国家間の戦いであるが、その本質はアメリカ国内のリベラル対保守の分裂・対立にあるのではなかろうか。そうであるとしたら、米中貿易摩擦は簡単には収束しないだろう。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うTS・チャイナ・リサーチ代表。メルマガ「田代尚機のマスコミが伝えない中国経済、中国株」(https://foomii.com/00126/)、ブログ「中国株なら俺に聞け!!」(http://www.trade-trade.jp/blog/tashiro/)も展開中。