金融庁の金融審議会が作成した「老後資金2000万円不足」報告書が大きな話題となった。政府は参院選前に“炎上”を鎮火しようと報告書を「受け取らない」「だからもう存在しない」ことにするという異例の対応をして火に油を注いだが、報告書を抹消すれば国民の老後が安心になるわけではない。ファイナンシャル・プランナーの清水斐氏は、「2000万円」がひとり歩きする現状に警鐘を鳴らす。
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6月はじめに公表された金融審議会の報告書は、「老後資金のために2000万円も貯められるわけがない」などと大きな反響を呼びました。ただ、SNSでの拡散や報道を通じて「2000万円」という数字がひとり歩きしてしまい、内容をきちんと認識できてない方が多い印象です。
たとえば、単身者の場合はまったく違う数字になることはご存じでしょうか。
報告書で記された「2000万円」は、あくまでも高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯)で、実支出から実収入を引いた毎月の“赤字”が約5万円になる(総務省の家計調査、2017年)ことから、それが30年間続けば「約2000万円の取崩しが必要になる」と記されていたことがベースになっていました。
この「月間の赤字」は、単身者になると約4万円になります。数字だけ見ると、「単身者は2000万円もいらないんだな、よかった」と思うかもしれません。が、具体的な金額を見ると、一概に安心もできないことがわかります。
家計調査では、高齢単身無職世帯の実収入は11万4027円、そこから税金や社会保険料などが引かれ、可処分所得(実際に使える金額)は10万1483円となっています。それに対して消費支出は14万2198円となっているため赤字は約4万円というわけですが、「月10万円で家賃も食費も水道光熱費も通信費も賄って生活する」のはかなり厳しいのが実際のところではないでしょうか。もし病気にでもなって医療費がかさむようになれば、逼迫した状況になることが想定されます。