日本政策金融公庫などの調査によると、幼稚園から大学卒業まで、すべて私立だった場合にかかる費用は約2600万円。国公立のみでも、約1000万円とされる。話題書『隠れ貧困』の著者で経済ジャーナリストの荻原博子氏がいう。
「ある程度の年収があっても、子供を私立に通わせる負担は重い。本来は、学費が比較的安く済む小中学生のうちに、高校・大学に進んだ時のための蓄えをしておく計画性が必要ですが、年収の多い世帯のほうが目の前のやりくりが切羽詰まっていないので対策が遅れがちになります」
また、「家のことは専業主婦の妻に任せておけばいい」と夫が油断してしまうことも家計崩壊の原因となり得る。荻原氏が続ける。
「夫の収入が多いと、妻に“周りに恥ずかしくないように……”と考える余裕が生まれてしまう。授業参観やPTAで“子供に惨めな思いをさせてはいけない”と洋服やバッグを揃えたりするわけですが、やり始めるとキリがありません。夫は夫で“世間より稼いでいるから大丈夫だろう”と思って家計の細かいことを聞かないから、問題の発覚が遅れてしまう。
私が相談を受けたケース(50代、夫の年収800万円)では、浪費によって毎月の家計が赤字であることを妻が夫に打ち明けられず、黙って実家に援助を仰いでいたという家庭がありました。結局は妻の実家が、持ち家を売らなくてはならないところまで追い込まれ、そこで夫はようやく家計の破綻を知った」
ここまで極端なケースではないにせよ、50代で「貯金ゼロ」となると、老後に向けて重くのしかかるのが住宅ローンだ。金融広報中央委員会調べによると、年収1200万円以上の家庭で貯金ゼロの割合は2005年は7.6%、2010年は4.9%となり、2015年は11.8%に増えている。よって、年収が高くても貯金ができない家庭が存在するのだ。
「35歳くらいから35年ローンを組んでいるケースはよくありますが、定年退職後の5年間で数百万円以上を支払うのに、貯蓄なしではまず無理」(同前)
そうした悲劇から学ぶべきは、計画的に支出を減らしていく「生活のダウンサイジング」の重要性だ。家計再生コンサルタント・横山光昭氏は、「分岐点は収入が上がらなくなり、定年が視野に入ってくる55歳頃」と指摘する。
「そのくらいのタイミングで支出を見直せないと、いつまで経ってもお金が潤沢に使えた頃が忘れられず、現役時代の収入が多くても老後が逼迫する『隠れ破産』のリスクがあります。逆に言えば、うまく見直すことで、収入が少なくても余裕のある生活が送れる『こっそリッチ』を実現できます」
※週刊ポスト2016年5月27日号