その結果、認められている保険などの販売で顧客に不利益を与える契約が横行した。町田氏が続ける。
「中央集権的な現業官庁から出発した組織ならではの古いカルチャーが残っている。日本郵便では、ゆうちょ銀行やかんぽ生命から求められた営業目標(ノルマ)を中央の本社が地域ブロック拠点に割り当て、その拠点から現場の最前線に降ろしていく。
現代的な成果主義なら個別の営業マンごとに前期の達成度や本人の意識に応じ、目標を設定するのが定石ですが、郵政は上意下達で押しつける風土がある。上に意見を言うのは一握りの人たちだけです」
上に物申さない代わりに、“面従腹背”が横行している形跡もある。7月31日の会見で日本郵便の横山邦男社長は「数年前から課題認識をしていた」としながらも「不適正な販売は減少してきていた」と述べた。
「苦情やトラブルの統計データが存在し、経営トップがその数字が改善していると誤解していたことが図らずも露わになった。つまり、社内にそうした統計を操作する“官僚”が存在し、不適切営業は“悪質でなく件数も少ない”と横山氏に信じ込ませていたと推察できるのです」(同前)
上意下達と面従腹背の組織が正常に機能するのは難しい。経営トップがよほどの手腕を発揮すれば別だが、日本郵政ではそれも難しい。
郵政民営化直後に起きた「かんぽの宿」問題などを受けて総務省が設置した「日本郵政ガバナンス検証委員会」の委員長を務めた弁護士の郷原信郎氏がいう。
「日本郵政グループでは、政権が変わるたびに社長の首がすげ替えられるなど、経営が政治的な影響を強く受けてきた。そのため、経営陣が、短期的に実績を上げようとし、ユニバーサルサービスの制約を受ける現場の実態と乖離したやり方のために不祥事が発生するというのが、これまで繰り返されてきた」
形ばかりの民営化が進められ、不適切営業が温存された。ツケを押し付けられたのは、郵便局を信じてきた一人ひとりの国民だ
※週刊ポスト2019年8月30日号