銀行・証券業界では、2014年からスタートする少額投資非課税制度、愛称『NISA』(ニーサ)に向け、顧客獲得競争が過熱している。そうした販売会社の動向を受け、運用会社では、新しいタイプの投資信託の設定が相次いでいる。リッパー・ジャパン、ファンドアナリスト篠田尚子氏が解説する。
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ここに来て設定が相次いでいるのは、「リスクコントロール型」と呼ばれるものだ。リスクコントロール型は、基準価額の下落リスクを抑えながら、安定的なリターンを狙うことを目的としている。従来、安定的なリターンが狙えるものとしては「バランス型」があったが、リスクコントロール型は、バランス型よりもリスクを低減させることを強く意識している点が大きな違いだ。
例えば、通常のバランス型は、あらかじめ決められた投資割合で複数の金融資産に投資し、リスク分散を図るものがほとんどだった。一方、リスクコントロール型は、「基準価額の下落を極力避ける」ことが前提条件になっているので、運用方針も細かく明示されている。
基準価額の下落を避けるためのリスク低減の具体的な方法としては、まず為替ヘッジが挙げられる。リスクコントロール型の中で海外資産に投資をするタイプのファンドには、純資産の7割を対円で為替ヘッジを行なったり、先進国通貨の部分だけを対円でヘッジするものがある。為替の変動リスクを極力抑えることを目指している。
また、運用会社独自の戦略によって、機動的に資産配分を変えることで、基準価額の下落を抑制するタイプや、株式先物に投資をして、ヘッジファンド的な手法で絶対収益を追求するタイプもある。
なぜ、リスクコントロール型がNISAでの運用に向くとされているのだろうか。NISAでは、いったん購入した投資信託を解約(=売却)することは自由だが、売却部分の枠の再利用はできない。NISA口座の年間投資上限枠は、1人100万円までとされており、例えば2014年1月に100万円で投資信託を購入したとすると、枠をすべて使い切ったことになる。その半年後に50万円売却しても、その50万円の枠は再利用できない。
したがって、リバランス(投資配分比率の調整)ができる投資信託であっても、確定拠出年金制度のように、投資家がリバランスを行なうことは認められていない。リバランスは売却と見なされてしまうからだ。
また、NISAの非課税期間は最長で5年間。もし、購入した金融商品に損失が発生し、非課税期間が終了してしまうと、非課税のメリットが使えないどころか、他の課税口座で保有する金融商品との損益通算や、翌年以降への損失の繰り延べができないといった、デメリットが生じてしまう。
つまり、NISAは損失に弱く、購入した投資信託に大きな損失が発生すると、身動きが取れなくなる可能性があるのだ。したがって、NISAに向く投資信託とは、前述のように、基準価額の下落リスクを抑えて安定的なリターンが狙えるもの、となるのである。
だが、これは金融機関の戦略も影響しているといえそうだ。金融機関は、NISAでは、これまで投資や資産運用の経験が無い、あるいはそれに近い運用のビギナー層の獲得を第一にしていると想定される。
そうした顧客層は、金融商品でリスクを取ることに慣れていない。したがって、なるべく下落リスクを抑えたものが向く、という考え方になる。資産運用の経験がある人にとっては、リスクコントロール型は物足りないと思うかもしれない。
※マネーポスト2013年秋号