◆中国不動産市場の重大な欠陥
中国の不動産市場は、市場化が不完全で、不公平、歪(いびつ)であるといった大きな構造問題を抱えている。
住宅を購入する方法は、不動産業者から商品としての住宅(商品住宅)を購入するだけではない。政府は低所得者のために、政府が資金的な支援をしながら住宅を供給するといった制度を用意している。こうした住宅を保障性住宅という。日本で言えば、極端に安い公団住宅のようなものである。この保障性住宅には、農村において、老朽化して古くなった住宅を政府が支援して建替えるといった“回遷房”も含まれる。
中国は社会主義国である。所得の低い人たちには政府の支援によって安く住宅が持てるような制度が用意されている。
また、所得はそれほど高くはないものの、国有企業や政府機関に勤める従業員に対しては、一括して商品不動産を購入し、それを彼らに安く分け与えるといったことがいまだに隠然と行われている。
1998年に住宅改革が始まったが、それ以前の住宅供給体制は、企業が従業員に住宅を手当てするといったものであった。それが住宅改革によって、住宅が商品化、市場化されたのである。もっとも、国務院は当初から、移行期間において組織が従業員の住宅購入を助けるということを黙認しており、改革開始から既に18年も経過しているのにこうした慣行が一部で続いている。
これらの方法では不動産が持てない人々が市場において商品住宅を買うわけであるが、この商品住宅市場には、自分たちの住む住宅を買うのではなく、投機として住宅を購入する人たちがたくさんいる。過去の実績が示す通り“不動産投資は絶対に儲かる投資である”からだ。
一部の官僚は利権を利用して賄賂を得ればそれを不動産で運用する。また、事業規模は小さくても多額の利益を得ている経営者は多い。彼らは余裕資金を捻出しては不動産投資につぎ込んでいる。民間でも外資のような高給を得る職員は、余裕資金を積極的に不動産市場につぎ込む。株で儲けた者も相場が悪くなると、不動産市場に資金をシフトしてくる。
一方、銀行も、不動産会社も、土地を供給する地方政府も不動産事業は大きな収益源であり、また、消費者と同じように不動産神話を信じている。
供給側も需要側も同じことを考えている以上、もし、彼らに自由な取引をさせたらどういうことになるかは明らかであろう。流動性資金は株式に流れるか、不動産に流れるかということになる。インターバンク市場において、中国人民銀行がいくら資金を供給しても、そうした資金は事業投資には向かわないことになる。
このように、不動産市場には重大な欠陥がある。中国の長期的な発展を考えれば、不動産市場も全面的な構造改革が必要である。
国務院は、供給側を監督管理する立場であるが、同時に発展を支援する立場でもある。共産党が不動産市場の徹底改革を行うしかないだろう。労働適齢期人口が減少している以上、成長率は数%あれば十分である。成長よりも構造改革である。
文■TS・チャイナ・リサーチ 田代尚機