一部で形を変えて実質的なノルマが残っている背景には、「終身雇用」という日本独特の正社員雇用の慣行の存在がありそうだ。前出・山崎氏が指摘する。
「よく“ノルマは日本に独特のもの”という言われ方をしますが、数値目標自体は欧米の企業にもあります。ただ日本流のノルマはトップダウン型で上からおりてくるものですが、欧米企業はボトムアップ型で、社員個々が『これだけの数字を上げる』と自分から宣言する。それだけに達成できなかった時の対処は厳しく、クビを覚悟しなければならない。日本の場合、ノルマを達成できなくてもクビにならない一方、成功報酬による格差も欧米企業のように大きくはありません」
かつては営業マンのやる気の源となり、その後、時代の変遷とともに“悪”と見なされるようになりながらも、形を変えて残るノルマ──これからの時代の営業マンは、複雑な環境のなかで、どう仕事をしていくことになるのか。
作家の江上剛氏は、1977年に第一勧業銀行(現・みずほ銀行)に入行し、2000年代初頭に支店長として赴任した店舗で、いち早く「ノルマ全廃」を実施している。江上氏がこう語る。
「リスクの高い商品を売りつけなくてはならないノルマなんてくだらないし、なくしたほうがいい。だけど、ノルマがないとどうやって仕事をしたらいいかわからないという人もいる。“何のために仕事をしているのか”“どうやったら仕事が楽しくなるか”を考えることが大切なんです。企業も、従業員が楽しく働けないようなところは業績が上がらない。いま、改めてそれが問われているのではないでしょうか」
ノルマのなくなった会社で社員たちはどう頑張りをみせるのか。そのはっきりとした答えはまだ見えていない。
※週刊ポスト2019年10月11日号