「在職老齢年金」制度が劇的に変わる。政府は高齢世代の就労意欲を削がないために“多く稼いでも年金は減らさない”方向で制度を改正し、早ければ来年から実施する方針を打ち出した。
現在、働きながら「厚生年金」を受給する人は約368万人、そのうち3割にあたる124万人が年金を減額されている。
現行の年金減額のルールは、「年金(厚生年金の報酬比例部分)+給料」の合計月収で決められる。65歳以上は合計月収47万円、65歳未満(60~64歳)は同28万円を超えると、超過分の半額にあたる年金額がカット(支給停止)される。ただし、カットされるのはサラリーマンが加入する厚生年金の報酬比例部分のみだ。
厚労省が10月9日、政府の社会保障審議会年金部会に提出した見直しケースの中では、年金カットを行なう基準を「合計月収62万円」に引き上げる案が有力だという。
働きながら年金をもらう時に「年金カット」を防ぐ“裏技”として、これまでは厚生年金に加入しない働き方を選ぶ方法が有効だった。
「在職老齢年金」は60歳以上でも会社員として厚生年金に加入している人が対象で、定年後に自営業者となって会社と業務請負契約を結んだり、アルバイトなど厚生年金に加入しない働き方を選べば、どれだけ収入があっても年金は全額受け取れるうえ、年金保険料を取られないからだ。
しかし、制度改正されると、会社員として月50万円稼いでも年金カットの心配はほとんどなくなる。そのとき、正社員とアルバイトのどちらを選んだ方が有利なのか。“年金博士”として知られる北村庄吾氏はこう語る。
「収入と年金額が同じであれば、正社員で厚生年金に加入した方が有利になります。理由は税金が安くなるからです。正社員は給料から厚生年金や健康保険料が天引きされるが、その分は、所得控除を受けることができる。年収300万円で年金月額が約16万円の正社員とバイトでは、社会保険料や所得税・住民税をトータルに試算すると正社員のほうが月約4万円程度負担が少なくなります」
正社員には、会社の健康保険組合による医療費補助や、保養所の利用など福利厚生面で多くのメリットがあることも見落とせない
※週刊ポスト2019年11月1日号