10月12日に東日本を直撃した台風19号は列島各地に被害の爪痕を残したが、湾岸沿いではなく、神奈川県川崎市の内陸に位置する「武蔵小杉」(神奈川・川崎市)が大きな被害を受けたことに驚いた人は多かったのではないか。
街のシンボルであるタワーマンションの浸水被害は「災害に弱い街」を印象付け、住民は長期間にわたって不便を強いられている。
古くからの戸建てに比べて、最新の設備を備えたタワーマンションは「災害に強い」というイメージがある。しかし、不動産コンサルタントの長嶋修氏は、その盲点を指摘した。
「タワマンが『災害に強い』というのは、『地震に強い』という意味です。高度な免震や制震構造のため、この売り文句は間違いない。ただし、今回のような水害を想定しているタワマンは限られるでしょう」
長嶋氏によれば、多くのマンションにおいて、重量のある配電設備は地下に置かれることが多く、今回のように、内水氾濫(排水の逆流)による停電を防ぐ設計は「建築基準法に定められた義務ではない」という。
だとすれば、武蔵小杉では今後も同じような災害が起こる可能性も否定できないのではないか。
「武蔵小杉だけでなく二子玉川(東京・世田谷区)など、蛇行していた多摩川を直線的に造り変えることで宅地化された場所は沼や湿地帯、氾濫低地だったところもあります。それゆえ水害のリスクと無縁ではいられない。
ところが、時代の移り変わりとともに、その土地の歴史を知る人がいなくなり、タワマンができる。『もともとは、どんな土地だったか』を知らずに移り住んできた人も少なくありません。災害に備える心構えとしても、土地の記憶を把握することは重要です」(同前)
※週刊ポスト2019年11月8・15日号