5月9日に発表された野村證券の投資情報部が投資家向けに作成するレポート『マーケットアウトルック』が注目されている。A4判2枚のシンプルなレポートの中で目を引くのが以下の文章だ。
〈16年度には緩やかな業績回復が続く中、日本株の反転が期待されます。16年年末の日経平均株価20000円との想定を継続します〉
昨年12月には2万円をつけた株価は年初の急落以来低迷し5月は1万7000円を下回る値動きが続いた。反転上昇の気配も見えない市況のなか、「年末2万円回復」という予測は実に強気に映る。
日本経済にはマイナス要因が多く、先行きは暗いと思う空気が漂っている。ところが、「野村レポート」を読むと、それらのマイナス要因を決して景気リスクと見なしていないことが分かる。野村は世間が抱く「懸念」を挙げたうえで、それとは異なる独自の分析を示している。
中国経済減速による影響もそのひとつだ。2015年8月には中国株の暴落を発端とした世界同時株安「チャイナ・ショック」により、多くの投資家が被害を被った。当時は1ドル=121円が116円まで一気に跳ね上がり、急激な円高は日本経済に深刻なダメージを与えた。
今年に入ってからも中国の主要経済統計は軒並み悪化しており、いつ次なるチャイナ・ショックが発生してもおかしくない状況に見える。大暴落に至らずとも、中国経済のスローダウンが日本に与える悪影響を懸念する声も多い。だが、野村は悲観論を一蹴する。
〈中国は4月の主要経済統計が総じて予想を下回ったが、鉄鋼などのオールドエコノミーの調整が進む一方、ロボットや新エネルギー産業の生産、インフラ投資が拡大しており、景気の底割れを回避しながら、構造調整を推進している〉
景気の下支え効果が見えてきており、チャイナ・ショック再燃のリスクは低下したという分析だ。
それどころか、中国経済の復調により、中国の原油需要が増え、下げ止まっていた原油価格を上昇させ、世界経済の成長を後押しする可能性も示唆している。
※週刊ポスト2016年6月10日号