6月1日発売の『マネーポスト』夏号の「超沸騰期待の新興株 厳選ランキング15」(P16~19)のなかで、グローバルリンクアドバイザーズ代表・戸松信博氏がバイオベンチャーのアキュセラ(東証マザーズ・4589)をピックアップしているが、同社は画期的な新薬と期待された加齢黄斑変性治療薬の臨床試験で有効性が認められなかったとするトップラインデータを本誌校了後の5月26日に発表。同社株は連日ストップ安が続くなど急落に見舞われ、今後の上昇が見込めない展開が続いている。この状況について、戸松氏が説明する。
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アキュセラ株について私は『マネーポスト』春号(3月1日発売)の「1年で株価倍増目指す爆騰新興株」でも注目銘柄の2位に取り上げたように、年初より長らく注目しておりました。その理由は6月に発表される予定であった同社が開発している新薬『エミクススタト』の臨床試験(臨床第2b/3相試験)の結果(トップラインデータ)が良好であった場合、長期的に業績が急拡大する可能性が高くなると予想したためです。
エミクススタトは加齢黄斑変性の進行を止める飲み薬です。加齢黄斑変性は高齢化と生活の欧米化にともない患者数が近年著しく増加し、日本でも失明原因の第4位になるなど、患者数は今後も高齢化に伴って、ますます拡大していくと予想されています。
これを完治させる治療薬はなく、これまでは進行を遅らせる眼球注射が3つ存在するのみでした。それゆえ現存する3つの薬のうち、最も費用対効果の高い「アイリーア」を開発した米国のリジェネロン社(REGN)の株価は数百倍となったほどでした。
ましてエミクススタトは飲み薬であるうえ、もしも加齢黄斑変性の臨床試験の結果が良ければ、糖尿病性網膜症や糖尿病性黄斑浮腫など他の適応症も対象となる可能性が視野に入り、最大規模の眼科医薬品に育つポテンシャルがあると見ていました。今回の臨床試験の結果についても、株価が急落するリスクも50%あるものの、半分の確率で大きく成長する可能性があると見ていたわけです。
さらにいえば、証券アナリストがエミクススタトの薬効について医学的な見地から詳細な分析をすることは難しいのですが、プロ集団である大塚製薬がパートナーとして、この治験に多額の資金を投じている事実がありました。アキュセラでは1年前にお家騒動があって旧経営陣が創業者兼会長を追い出そうとしたのも、この薬の高い将来性に期待するあまりのことと見ていました。また、以前の試験結果を分析したルーカス・シャイブラーという製薬界の大物がノバルティス社から同社に移ってきたという話も有望性を示すヒントと考えました。
ところが、5月26日に予定よりも早く臨床試験の結果が発表されました。結果は簡潔に述べれば、全く有効性なしと大変残念な結果に終わりました。この発表の前日(25日)後場より、同社株が急落していますが(発表半日前の急落はインサイダー取引の可能性があるとして現在調査中です)、その後も場中に取引が成立しない状況となっています。
以上、説明した通り、残念ながらこの臨床試験の結果発表によって、エミクススタトの上市(発売)の可能性は低くなったと考えます。もちろん可能性がまったくなくなったわけではなく、同社は他の適応症も対象となる臨床試験を進めていますが、他社の薬品では、まず加齢黄斑変性、その上市後に糖尿病系の関連症状に適用拡大してきており、その可能性は極めて低いといわざるを得ません。
同社株は期待感から一時的に大きく舞い上がり、雑誌校了時点の株価5060円(5月20日終値)から5月25日には一時7700円まで上昇していました(ちなみに、掲載に向けての原稿作成などは5月20日よりもさらに前に行なわれています)。ともあれ、高い株価で購入した投資家もたくさんいると思われますので、株価が戻れば戻り売りの圧力を受けやすくなります。また足元では、信用買いなど、どうしても投げなければならない人の売り注文も相当あるものと思われます。一方、買い需要は前述の臨床試験の結果発表で冷えています。
そうした状況から、今号掲載のアキュセラ株については、注目銘柄から外したいと思います。雑誌校了後に、臨床試験の結果発表の日程前倒しやインサイダー取引の疑惑を含め、想定外の事態が重なったこともあり、現状とは乖離した記事掲載になってしまったことを、お詫びいたします。