5月に入って相次いで発表された大企業の「弱気決算見通し」を聞かされれば、景気動向の先行きに明るい希望を持てなくなるのも仕方ないところだ。しかし、その判断は早計かもしれない。日本最大の証券会社・野村證券は、いまだに強気を崩していない。
5月9日に発表された野村の投資情報部が投資家向けに作成するレポート『マーケットアウトルック』の中には、こんな目を引く分析がなされている。
〈16年度には緩やかな業績回復が続く中、日本株の反転が期待されます。16年年末の日経平均株価20000円との想定を継続します〉
昨年12月には2万円をつけた株価は年初の急落以来低迷し5月は1万7000円を下回る値動きが続いた。反転上昇の気配も見えない市況のなか、「年末2万円回復」という予測は実に強気に映る。
日本経済にはマイナス要因が多く、先行きは暗いと思う空気が漂っている。ところが、「野村レポート」を読むと、それらのマイナス要因を決して景気リスクと見なしていないことが分かる。野村は世間が抱く「懸念」を挙げたうえで、それとは異なる独自の分析を示している。
では、最大のリスクである「円高」は解消されるのか──。円高は企業業績の悪化やインフレ期待の押し下げを通じ、景気の下振れリスクを拡大するとされるが、野村は円高懸念が強すぎると指摘する。
〈対外証券投資が進むことで一方的な円高懸念が是正され、まずは1ドル115円を中心としたレンジに戻る〉と述べたうえで、現在の円高状況が思い切った経済・金融政策を促す可能性を記している。
野村は2017年4月に予定されている消費税増税を「2年先送りする」と予想し、秋には5兆円規模の補正予算による財政出動が打ち出されるとしている。それに先がけて、6月に予定される米FOMC(米連邦公開市場委員会)や英国のEU離脱国民投票が終わった7月に日銀が“勝負に出る”という。
〈金融緩和の手詰まり感が生じているが、日銀は経済成長、インフレ見通しを下方修正しており、7月にマイナス金利の拡大、ETF(上場投資信託)などの買い入れ額倍増を含む追加緩和措置を実施すると判断する〉
「増税延期」「財政出動」「金融緩和」の3セットが円高を是正するというシナリオだ。
※週刊ポスト2016年6月10日号