5月9日に発表された野村證券の投資情報部が投資家向けに作成するレポート『マーケットアウトルック』が注目されている。A4判2枚のシンプルなレポートの中で目を引くのが以下の文章だ。
〈16年度には緩やかな業績回復が続く中、日本株の反転が期待されます。16年年末の日経平均株価20000円との想定を継続します〉
昨年12月には2万円をつけた株価は年初の急落以来低迷し5月は1万7000円を下回る値動きが続いた。反転上昇の気配も見えない市況のなか、「年末2万円回復」という予測は実に強気に映る。
そうした楽観にも思える予測を市場関係者やアナリストたちはどう見ているのだろうか。カブドットコム証券の山田勉・マーケットアナリストは野村レポートに賛同する。
「〈増税延期〉〈財政出動〉〈金融緩和〉の3セットの金融緩和が断行されれば、年末の株価2万円が期待できるという見通しは決して甘いものとは思わない。必要なのはアベノミクスの“再起動”です」
議論が分かれるのは「円高」の是正だ。焦点は、円安に働く米国の利上げが行なわれるかどうかだが、野村のライバルである大和証券投資戦略部の石黒英之・シニアストラテジストはやや悲観的な見方をする。
「米国の利上げが即、円高の是正につながるかは微妙です。昨年12月の利上げでは、新興国から資本が引き上げられ、中国経済が悪化して世界経済が不安定化し、ドル安・円高という予期せぬ状況になりました」
実は円高リスクについては、野村も留保条件を付けている。
5月23日に更新された『マーケットアウトルック』では、今年1~3月期の米国GDP成長率や4月米雇用統計の弱さから、米国の利上げ期待が低下したと判断したことを踏まえて、〈円安への戻りは緩やかである〉として、年末の円相場を1ドル115円に設定し、株価予測を「1万9000円」に下げたのだ。
ただし、ここでも1ドル=120円まで円安が進んだ場合の年末の日経平均は「2万円」との予測は堅持している。
その「1ドル=120円」は十分に現実的と見るのは、ケイ・アセット代表の平野憲一氏だ。
「現在の米国経済は回復傾向にあり、早ければ7月にも利上げが行なわれる。日銀が大規模な追加緩和を実施すれば、年末の1ドル=120円も見えてくる」
すでに野村の予測通りに消費増税先送りの公算が高まるなど、追い風は吹き始めたようにも見える。日本の経済界をリードしてきた野村證券の掲げた「年末2万円」は現実味を帯びつつある。
※週刊ポスト2016年6月10日号