田代尚機のチャイナ・リサーチ

中国人民銀行が人民元安誘導へ 5年ぶりの安値水準

 中国の外貨準備は流動性に乏しく、いざというときに利用できないのではないかといった指摘もある。

中国の場合、外貨準備はいろいろな形で運用されている。たとえば、昨年の株価急落以降、国家による本土A株の買い支えが行われているが、外貨管理局傘下の投資プラットフォームを通じて資金が回っていることが明らかになっている。

とはいえ、3月末現在、中国はアメリカ国債を1兆2446億ドル保有しており、日本の1兆1371億ドルを上回っている。これだけ流動性の高い資金を多額に持っている以上、ちょっとした資金流出を心配する必要はない。

昨年目立った資金流出は、海外投資家の資金逃避が原因ではなく、本土の富裕層による投機や資金逃避が主な原因である。日本でも中国人による日本の不動産買いが目立つが、中国人の不動産投機はグローバルに展開されている。加えて、共産党の汚職追及は長期化している。法的にグレーな資金の海外流出圧力は依然として高い。

中国では、法人については、事業以外の目的での資金の海外持ち出しは原則として禁止されている。個人の金融資本取引についても自由化されていない。1人、1年間5万ドル相当以下といった持ち出し制限がある。これを超える場合には、何に利用するのか証明する資料と本人の身分証コピーなどを提出しなければならない。今回の外貨準備の回復は、違法流出資金の取り締まりを強化した結果である。制度設計上、当局は資金流出に対してコントロールが充分可能である。

最も投資家が知りたいのは、今後、人民元相場がどうなるかであろう。冒頭で示した通り、5月3日を天井として、足元では人民元安が進んでいる。

今回の人民元安は6月におけるアメリカの利上げ見通し急浮上が最大の要因であると考えられている。国際通貨のバスケットを参考にして基準値が決められる以上、他通貨に対するドル高は人民元対ドルレート・基準値でも、ドル高・人民元安となる。

しかし、4月の月次経済統計の悪化も見逃せない。中国経済にとって、緩やかな人民元安が望ましい。

アメリカがもし6月(あるいは7月)に利上げを行うのなら、中国人民銀行は緩やかな人民元安誘導を行うだろう。投機家が人民元売りを仕掛ければ、急激な人民元安を嫌い、今回のように一旦、人民元高に誘導するかもしれないが、それが整理されれば、再び人民元安局面に戻るだろう。それが最も国益にかなうからである。

当局は人民元相場をコントロールすることができる。国際市場に対しては引き続き、自由化の進展を主張し続けるだろうが、国家の利益最大化が行動原理の中核にある。そのことを忘れるべきではない。

文■TS・チャイナ・リサーチ 田代尚機

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